あるとき、アントニオ・パニコのアトリエを訪れると、その日は実際に仕立てが行われているサルトリアを案内してくれました。
そのサルトリアの一角にあまり使われていないような雰囲気の、出来上がった服や仕立て途中の服を一時的に置くような部屋がありました。しかし気になったのは、その両脇の棚に詰め込まれている非常にテイストの偏った生地たちでした。
これは、アントニオ・パニコの個人的な生地ストックなのです。
実は上の写真に写っているものが、そのストックの一部です。
私は軽い生地は好きじゃない。逆に重くて、ずっしりとした生地が好きだ。60年代以前の生地など素晴らしいが、もう手に入らない。 – Antonio Panico
アントニオ・パニコは、好みが非常にはっきりとしています。彼は高級だから、あるいはグレードが高いから、という理由で生地を選ぶことを嫌います。彼は逆に仕立てたときに美しく、長く着ることのできるしっかりとした生地が好きなのです。
必ずしも高級な生地である必要はありません。
アントニオ・パニコの生地ストックも、ビンテージのものがほとんどですが、イタリアのカルネから、名もない英国の生地までブランドは実に様々です。しかしその生地感と色柄選びには一貫したテイストがあります。
柄はチェック柄や無地、ストライプなど様々ですがクラシックな英国由来のものが多い。また生地はツイードやフランネルが多く、彼がいかに重量感のある生地を好むかが分かります。
アントニオ・パニコの生地選びにルールはありません。彼の生地選びにはテイストがあるのです。
アトリエで顧客が生地を選ぶとき、彼は顧客の意見を聞くが、あまり意見を出すことはありません。彼は偉大なマエストロでありながら、常に顧客の要望に沿って服を作るからです。
ですから顧客がSUPER 180’Sのような繊細な生地を持ち込んでも、アントニオ・パニコは断らないでしょう。
しかしアントニオ・パニコのところに、今では流行りそうもないずっしりとしたビンテージ生地を持ち込んだとき、マエストロの目が輝くことを見逃してはいけません。